データ収集は、炭素国境調整メカニズム(CBAM)に基づき製品に内包された排出量を算定するための重要なステップです。本ガイドでは、評価に必要なデータを収集し入力する方法を説明し、排出量計算の正確性と CBAM 規則への適合を確保します。
データ収集が重要な理由
収集するデータは排出量計算の精度に直接影響します。製品ごとの排出量は、原材料、エネルギー使用、生産量、プロセス固有の排出など多数の要因に依存します。網羅的かつ正確なデータ収集により、次が保証されます。
規制遵守: CBAM の報告要件を満たす。
精度: 計算に信頼できる排出データを提供。
透明性: 規制当局やステークホルダーとの明確な報告とコミュニケーションを実現。
⚠️ 重要: 以下で収集するデータは、常に同じ**集約商品カテゴリー(AGC)**を対象としています。同一 AGC に属する製品を 5 つ作成した場合は、必ずデータを合算して調整してください。
例
A 社は B 工場で同一 AGC に属する製品を 5 種類、それぞれ年 10 000 トン生産しています。5 製品すべてが CBAM の対象です。データ収集では、出力量を合計 50 000 トンとして入力し、その 50 000 トンを生産するために消費した原材料も合算して記録します。
収集すべき主なデータカテゴリー
CBAM 評価では、以下のカテゴリーのデータが必要です。具体的な要件は製品の AGC により異なりますので、他のガイドも参照してください。
本記事では「鉄または鋼製品」のデータ収集プロセスを解説します。
1️⃣ 前駆体データ
前駆体とは、製造工程で使用する原材料や投入物を指します。評価の設定により、データが必要な前駆体数は異なります。「鉄または鋼製品」では次の 5 つの選択肢があります。
鉄または鋼製品
粗鋼
DRI(直接還元鉄)
銑鉄
フェロアロイ
すべての前駆体を選択可能です。各前駆体について次を行います。
購入品か自社生産品かを指定。
使用量を入力。「データを追加」で同一前駆体に複数行(複数サプライヤー等)を登録可能。
購入品の場合
サプライヤー固有の排出データ、または欧州委員会が提供するデフォルト排出係数を使用します。
サプライヤー固有データでは、直接・間接 SEE および埋込電力を入力します。
デフォルト値を使う場合は、前駆体の CN コード を入力し正しい係数を選択します。
自社生産品の場合
現場または他拠点で生産した製品を前駆体として使用する場合は、新しい評価を作成して排出量を計算してください。
💡 理由: 前駆体データにより原材料起因の排出を正確に捉え、最終製品に適切に割り当てることができます。
2️⃣ 燃料データ
製造工程で消費した燃料の詳細を入力します。
燃料の種類(例: 原油、天然ガス、石炭)。
使用量。
💡 理由: 燃料消費は内包排出の大きな要因であり、正確なデータが規制遵守と報告精度を支えます。
3️⃣ 電力データ
製造時の電力使用を計上します。
総電力消費量
電力の種類
系統電力(IEA のデフォルト係数を使用)
その他の電源(別のデフォルト係数、直接接続、PPA など。専用係数を入力可)
💡 理由: 電力は主要な排出ドライバーであり、その使用を記録することでエネルギー源に基づく精密な計算が可能です。
4️⃣ プロセス産出量
プロセス産出量には最終製品と副産物が含まれます。
最終製品の総産出量を入力(同一 AGC 製品が複数ある場合は合算)。
💡 理由: 産出量は製品間での排出配分方法を決定します。正確な数値が正しい割当を保証します。
データ収集手順
必要データの特定: 製品 AGC の具体要件を確認(ガイド参照)。
情報の収集: 社内システム、サプライヤー、関係者からデータを取得。
ツールへの入力: 該当評価でプロセス排出、燃料、電力、産出量等を入力。
進捗の保存: 入力中にこまめに保存し、データ損失を防止。
データの検証: 計算実行前にエラーや欠損をチェック。
データ収集のベストプラクティス
サプライヤーとの連携: 原材料・前駆体の排出データ精度を確保。
データ源の標準化: プロセス・燃料・電力データは一貫した情報源(社内記録や請求書)を使用。
不足データにはデフォルト値: CBAM 承認のデフォルト係数を活用。
定期的なレビュー: 入力済みデータを定期確認し、正確性と完全性を維持。
結論
正確かつ完全なデータ収集は CBAM 評価成功のカギです。前駆体、燃料、電力、プロセス産出など主要カテゴリーに注力することで、精緻な排出計算と規制遵守を実現できます。各データ入力の詳細手順は専用ガイドを参照するか、サポートチームへお問い合わせください。